ハニカラ~Honey Collar~ 35話
ソルと八月一日宮は共に私本人ではなく、私の中にあるだろう母を求めて求愛して来たという事が露見した。
其れは私にとっては驚くべき真実だった。
けれど
「唯一カイトだけがカラさん本人を求めて愛していた──ということになります」
「…そう、なんだ」
八月一日宮の言葉を訊いて、私は自分で自分を褒めてあげたい気持ちになった。
最初に逢った時のカイトには其れはもう最悪の印象しか持てなかったというのに、そんな最悪がいつの間にか最愛に変わってしまっていた。
何か劇的な事があって変わったのではなく、共に暮らして行く内にカイトという男の本質に時折触れ、其れが無意識の内に私の心の中によい印象として少しずつ重なって行った結果だった。
だから不確かだった気持ちは一度恋と認識した途端に弾けてしまった。
(そういう意味では…八月一日宮の云う通り本能ってやつなのかな)
今まで恋らしい恋愛をした事の無かった私。
頭で考えてする程器用ではない。
だからこそ私はこの結果が真実であると信じて疑わなかった。
「──陽、ソル、其れじゃあ俺はカラと結婚してもいいんだな」
「…うん、カイトは僕のお父さん、だから」
「あー、お父さんはよして欲しい。せめて兄とか」
「…お父さん」
「~~~あぁ、もうお父さんでもいいからせめて呼ぶ時は名前で呼んでくれ!」
「……解った」
カイトとソルの会話がとても妙で傍で訊いていると思わず吹き出しそうになる。
「まぁ…仕方が無いですね。最初からカラさんに選ぶ権利があるという事でしたので。思ったよりも悔しい気持ちが湧いて出ていますが、こうなったら祝福するしかありません」
「陽…」
「カイト、カラさんを幸せにしてあげてください」
「そんなの当たり前──ってか、陽の方こそカラの父親かって感じだな」
「あ、やっぱりそう思うよね?私も前にそんな風に思ったんだよ」
カイトの言葉に思わず私も加勢した。
すると『父親』呼ばわりされた八月一日宮は恐ろしい程の笑顔を湛えながら
「…わたしとソルを心配させた罰として、今夜はあなたたちの夕食は抜きです」
「は?なんだ、そりゃ」
「ご飯抜きって、そんな横暴な!」
八月一日宮の突然の暴言に私とカイトは激しく反応した。
「わたしが父親だというのならばこの家で一番偉いのは父親であり家長のわたしです。わたしの云う事には従いなさい」
「なんだ、其の屁理屈」
「八月一日宮って本当融通が利かないよね」
「なんとでも云いなさい。さぁ、カイトとカラさんはお風呂に入って綺麗にして来てください。汚いままでいる事は赦しません」
「…なんかヨウ、お父さんじゃなくてお母さんだ」
「──は」
会話に突然参戦したソルのひと言で、私とカイトは思わず吹き出してしまった。
そして八月一日宮は今までに見た事が無い位の呆気に取られた表情を見せ、そして「ソルも今日の夕食は抜きです」なんて大人げない事を云っていたのだった。
(なんだか…夢見たい)
今私の傍にいる三人は、ほんの一ヶ月前までは全く知らない人間だった。
私がこれまで生きて来た18年間になんら関わりのない人間だったはずなのに、何故か今、まるで長年連れ添った家族のような関係を築いてしまっている。
ずっとひとりだった。
ひとりでいいと、思っていた。
だけどこんな幸せな関わりを知ってしまったら、私はもうひとりにはなれない気がした。
(これって母が残してくれたもの、だよね)
ソルじゃないけれど、私にとっても亡き母から遠回りして家族というものを与えられた気がして其の時少しだけ、感謝の気持ちから心で泣いてしまったのだった。
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